2022-07-07
22年1月に施行!電子帳簿保存法改正による飲食店の対応

22年1月に改正電子帳簿保存法が施行され、23年12月末までに電子取引のデータ保存に対応しなければならないが、伝票などを紙で管理している飲食店はどのように考えれば良いのだろうか。
そこで今回は電子帳簿保存法の基礎知識と今回の改正内容、違反した場合のリスクなどを紹介していく。
この記事を読むことで電子帳簿保存法に対応する上でのヒントが分かるため、ぜひ参考にして欲しい。
目次
そもそも電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)とは、所得税法などに基づいて帳簿や書類を電子データで保存するための規則等を定めた法律のことである。
請求書や帳簿などは法律上、紙での保管が義務付けられているが、紙での保管はスペース問題や整理に余計な手間が発生する問題があったため、この電子帳簿保存法によって一定のルールを守ることにより、紙の原本を不要とし、電子データでの保管を認めている。
電子帳簿保存法は、過去に複数回にわたって改正が繰り返されてきたが、コロナ禍に伴うテレワークの普及やペーパーレス化を推進する中で紙を使った業務の課題が浮き彫りとなり、22年1月1日の改正によって、大幅な見直しが行われた。
この改正によって、電子データに関する取り決めが緩和され、よりペーパーレス化に対応しやすくなった一方で、改ざんや隠ぺいなど不正行為に対するペナルティがさらに強化されている。
電子データの3つの保存区分
電子帳簿保存法における電子データの保存区分には、以下の3つがあり、いずれかの方法によって、本来は書面での保管が求められている書類を電子データで管理できるようになる。
【電子帳簿等保存】
PCなどで初めから作成した帳簿・書類をデータのまま保存する
【スキャナ保存】
紙で受領・作成した書類などをスキャナ等を使って、画像データとして保存する
【電子取引】
電子データとして授受した取引情報をそのまま保存する
電子帳簿保存法の7つの改正内容
2022年1月1日に施行された改正電子帳簿法だが、具体的にはどのような変更点があるのだろうか。
次にこの章では、電子帳簿保存法の主な改正内容を説明していく。
税務署長による事前承認制度の廃止
従来は国税関係帳簿を電子データで管理する場合は、3ヶ月前までに所轄の税務署長に申請・承認を得る必要があった。
しかし、事業者に負担が発生していたことから今回の改正によって事前承認制度は廃止となり、より簡易的に国税関係帳簿を電子データとして保管できるようになった。
過少申告加算税の軽減措置が整備
一定の要件を満たしている帳簿は以前から優良な電子帳簿に認定されていたが、今回の改正により優良な電子帳簿に申告漏れがあった場合の過少申告加算税が5%軽減されるようになる。
もちろん、改ざんや隠ぺいによる申告漏れは対象外となるほか、ペナルティが発生してしまう。
検索機能要件の緩和
これまで検索機能要件は、指定範囲や組み合わせ項目などが要件として掲げられていたが、複雑であったことが課題となっていた。
しかし、今回の改正によって、以下の内容の記録のみが必要になった。
- ・取引年月日やその他の日付
- ・取引先およびに取引金額
スキャナ保存によるタイムスタンプ要件の緩和
改正前は領収書などの国税関係書類には、自署後から3日以内にタイムスタンプの手続きを済ませる必要があった。
しかし、今回の改正によって、自署は不要で記録事項の入力機関と同様である最長2ヵ月と概ね7営業日以内までの対応と大きく緩和された。
適正事務処理要件の廃止
今回の改正によって、これまで課せられていた相互けん制や定期的な検査、再発防止策の社内規定整備などがすべて廃止となった。
不正に対するペナルティの強化
適正な保存を厳守するべく、これまで隠ぺいや仮装されていたことが発覚した場合は35%の重加算税が課せられていた。
今回の改正によって、隠ぺいや仮装で申告漏れが発生している場合は、さらに10%、合計で45%の重加算税が課せられるようになるため、隠ぺいや仮装は防がなければならない。
電子取引のデータ保存義務化
これまでは電子データで受け取った請求書や契約書など国税関係書類を紙に印刷して保管することが認められていた。
しかし、今回の改正によって電子データを紙に印刷して保管することは認められず、電子データで受け取った国税関係書類は電子データとして管理しなければならない。
電子取引のデータ保存義務化の猶予と違反した場合のリスク
電子帳簿保存法で求められている電子取引のデータ保存義務化は、22年1月の施行と同時に義務化される予定であったものの、現時点では紙で書類を管理している企業が多く、整備も進んでいないことから23年12月末までの猶予が設けられた。
どのような理由があったとしても、この期限までには電子取引のデータ保存を電子データでの管理へ切り替える必要があり、もし対応していない場合は以下のリスクが発生するおそれがあるため、注意が必要だ。
国税庁に問い合わせたところ、この章で紹介するリスクはあくまでも想定であり、実際に生じるペナルティは現時点ではまだ確定していないとのことであるが、万が一のために備えてやはり23年12月末までは対応を済ませておいた方が良いだろう。
もちろん、23年12月末までに電子データ保存に移行した上で運用できている状態が求められており、23年12月末に移行&24年1月から運用開始では違反となってしまうため、期限までに間に合うように今から準備を始めることが大切だ。
青色申告の承認取り消し
青色申告をすると最大65万円が特別控除されたり、青色事業専従業者給与を必要経費にできたりと数々の特典を受けることができる。
しかし、電子取引データを電子保存していない、保存要件を満たしていないなど義務化に対応していない場合、最悪は青色申告の承認が取り消しになってしまう。
取り消しになった場合は特典を受けられなくなるほか、以下の著しいデメリットが生じてしまうため、注意が必要だ。
- ・損金の繰り越しができない
- ・銀行の融資が難航するなど企業の信用が大きく低下する
- ・取り消し後1年間は青色申告を申請できない
推計課税などが課されてしまう
青色申告が取り消されると自動的に白色申告になるが、白色申告では税金の全体像を把握できないため、推計課税が課せられてしまう。
推計課税とは、同業他社の売上や経費の平均から推測して所得税・法人税を税務署が決めることであり、正確な税金を調査できないため、場合によっては本来よりも高い税金が発生してしまうのだ。
また電子取引の保存要件を満たしていないなどで違反しているとみなされた場合は、追加課税により多額な税金の支払いを余儀なくされてしまう。
ペーパーレス化を進めていない飲食店は対応が必要
今回の改正で一番大きなポイントは電子取引のデータ保存義務化であり、すでに電子帳簿保存システムやPOSレジの導入などペーパーレス化を行っている飲食店はさらに帳簿・書類を快適に保管できるようになる。
その反面、これまでペーパーレス化を導入していなかった飲食店は迅速に対応する必要があり、改正された今も紙でやり取りしている帳簿・書類は電子帳簿保存法の対象とはならないが、メールなどでやり取りした請求書や発注書、伝票などは今後は電子データとして保管しなければならない。
必要な項目や検索要件を設定し、スプレッドシートなどで管理する方法もあるものの、人力では対応が難しい上に余計な手間や抜け漏れが発生するというリスクがあるので、効率的に対応するためには電子帳簿システムや会計管理システムなどのツールに頼ると良いだろう。
最後に
22年1月に施行された改正電子帳簿保存法だが、ペーパーレス化が十分に進んでいないことから23年12月末までの猶予がある。
PC等でやり取りした見積書や発注書などを紙に印刷して保管していた飲食店は、期限までに今回の電子取引のデータの電子保存に完全移行&運用しなければならず、違反した場合は青色申告の取り消しなどの打撃を受けてしまうおそれがある。
この機会にペーパーレス化を実現するべく、POSレジや電子帳簿保存システムの導入を検討すると良いだろう。